名古屋市長 河村 たかし 様

 

猪高緑地・里山再生シンポジウム2010参加者による提言

「いたかの森里山再生プラン」市民会議実行委員会

実行委員長 堀田 守 

名東自然倶楽部  代  表 土方 惠夫 

 

 いたかの森は、名古屋市東部に残された、自然豊かで生命が息づく貴重な緑地です。 

里山環境の残された緑地帯には、小高い山があり、農業用のため池があり、棚田の田んぼが復元され畑や農道、水路もあり里山といえる景観が保たれています。田んぼには、メダカやドジョウ、トンボやチョウチョ、ネズミやカエル、そこに鳥たちも集まってきます。ここは生き物の生活の場であり、人と自然のふれ合いの場でもあります。昔のいたかの森は、山で薪や柴を採ったり、炭を焼いたり、田んぼでは米を作り落ち葉をかいて肥料にし、雑木林の木の枝を伐って燃料にしたり、人々の生活と密接につながっておりました。また、ゴミを出さない循環型社会も形成しておりました。「里山の保全と恵み」この先人達の知恵は、今の私たちに自然との共生を教えてくれています。しかし、いたかの森も市民の生活環境の変化で、薪や柴を取りに森に入らなくなり田んぼも放置されるようになると、竹も繁茂し、森も荒廃してきました。

1997年に名東自然倶楽部が発足し、いたかの森の保全活動が始まり、2001年には、棚田の田んぼも復元され、除々に1960年代の里山に復元されつつあります。里山は、人の営みによる自然への継続的な働きかけにより、多様な自然生態系が保全されることも、今回の講座で学習を行い、まさにその通りであると確信しました。

今年はCOP10(生物多様性条約締約国会議)がここ名古屋で開催されます。生物多様性「4つの危機」では、第2の危機「里地・里山の人の手による管理不足」がうたわれています。キーワード「里山の保全」都市中における「いたかの森」が里山環境に復元しつつある現状を踏まえ、自然豊かで生命が息づく「いたかの森」を次世代へ引き継ぐため、平成22年2月14日「猪高緑地・里山再生シンポジウム2010」を開催し、参加者総数150名の方より賛同を得ましたので名古屋市関係各部局に対し、次の提言をいたします。

 

提   言

 

1.猪高緑地全体について

 1−1 いたかの森の生物の保護、猪高緑地、森の保全のため、名古屋市としての事業区域全体ゾーンの保全計画を明確に宣言すべきである。

 1−2 いたかの森は長久手町と隣接し、住民の利用など密接なものがあり、今後の緑地帯の維持管理など、長久手町との連携をより深めるための連絡会等を設置すべきである。

 1−3 大都会の中の市民が安心して楽しめる自然(里山)公園として保全、育成するため、市民、行政、学識経験者、議会の連携が必要であり、実施計画作りの委員会の設置を早期に実施すべきである。

2.ため池の整備と湿地の再生

 2−1 塚の杁池については、いたかの森の中心的存在であり、水辺研究者からも名古屋の宝石だとも絶賛されている。しかし、すでに50年近く放置され、腐食泥土の堆積、堤体の損壊と大木の繁茂、池の中は外来の植物(スイレン、フサジュンサイ等)や外来の魚(ブラックバス、ブルーギル等)によって在来種が絶滅の現状状態である。堤体の修復、池干しによる生物調査と外来種の除去、泥土の浚渫(しゅんせつ)を実施すべきである。

 2−2 棚田の水源となっている、井堀の上池・下池については漏水があり、棚田の維持も危具されている。漏水対策と水源地・水量確保の為の調査・池補修整備を早急に実施すべきである。

 2−3 昔、いたかの森では、飲める湧き水があった。湧き水は、そこに生息する生物の生命線であるので、湧き水を埋めた土砂を取り除く等、湿地の保全整備、生物多様性ある、より自然豊かな里山への自然環境再生を要望する。

3.田んぼの復元について

 3−1 いたかの森は、谷地を利用した棚田が存在する名古屋市内唯一の場所である。谷地地形3本のうち1本の沢は、棚田として整備され、1本は、しだれ桜の里として名東自然倶楽部が名東土木事務所と協同し保全整備を行っている。残る1本は、未整備放置されたままである。より豊かな里山環境を作るうえにも小川の流れある草地、畑、農道、水路など整備計画を早急にすすめ、3つの沢が連携した里山構想の自然里山公園としての位置づけを希望する。

4.里山の保全と市民利用について

 4−1 カシノナガクイムシの多発生のように、樹木の老化による影響や、竹の繁茂など、里山は人の営みによる継続的な維持保全の働きかけが必要であることを主張してきた。ボランティアで名東自然倶楽部、森づくりグループが土木事務所と協働連携し「いたかの森」の保全を行っているが、作業面積的限界もあり、部分的な保全しかできていない現状である。森の保全について森の再生を含めた里山環境維持のための事業予算化を促進し、市民団体とのパートナーシップの強化など、緑地保全のため具体策をもっと推進すべきである。

 4−2 猪高緑地では、季節ごとに山芋、竹の子、植物などの盗掘が横行し、竹林、樹園地などが荒廃している。自然の恵みと市民利用について、竹刈体験や竹の子堀り体験等の市民を巻き込んだ行事を行政主導の事業計画とし、ルールある公園利用と市民利用のあり方を模索すべきである。

5.自然との共生と環境を学ぶ場の位置づけ

 5−1 緑地内にある名東プールが来年度(平成22年度)の利用をもって閉鎖されるが、税金投入の解体方針ではなく、現在の施設再利用(駐車場部分も含む)を考慮した自然体験教育、環境教育の拠点、また森の管理棟・知の拠点(サテライト)としての機能を備えた整備存続方針の策定を要望する。

5−2 この里山環境は、小中学校や市民の自然を学ぶ場・里山体験活動の場として、絶好のエリアと考える。名古屋市は、この「いたかの森」を子どもたちの自然教育の場、市民にとっての環境教育の場として位置づけ、名古屋市各部局の協働による、体験学習機会を提供すべき場としての位置づけを要望する。

 

 平成22年2月14日

テーマ「いたかの森を考える」シンポジウム参加者一同