いたかの森入り口広場 |
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「いたかの森」のある猪高緑地は東名高速道路名古屋インターに隣接する面積66.2haの都市基幹公園です。本プロジェクトは名古屋市の施策「オアシスの森づくり事業」の一環として取り組まれました。 同事業は、都市緑地として都市計画決定されながら未買収の民間樹林地等を市が使用貸借し、必要最小限の施設整備をした上で市民に早期供用する制度です。 対象地は営農活動が途絶え、樹林地の荒廃、竹林化、畑や水田の雑草地化が進行していました。一方都市に残された貴重な自然の保護・保全を求める市民活動も盛んで、緑地整備によって自然環境に影響が出ることに懸念の声が寄せられ、事業の前提として関係各者の合意形成が求められていました。
所
在
地:名古屋市名東区猪高町上社ほか 設計期間:(基本計画)平成10年5月〜12月、(事業計画)平成11年11月〜平成12年3月、 (実施設計・施工管理)平成12年7月〜平成13年3月 施工期間:平成12年10月〜平成13年3月 規 模:対象面積14.5ha(緑地全体緑地面積66.2ha) 主要施設:棚田の復元、湿地ビオトープの創出、雑木林の手入れ、竹林の手入れ、 利用施設の整備(休憩所、作業広場、デッキ通路、縁台、ベンチ、サイン等) |
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雑草に覆われ棚田の地形も確認できない。 |
畦や水路は新しく造り替え、多人数の利用に配慮している。 |
1年後の棚田 |
放置されていた森 |
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無事収穫できた翌年の春には、すっかり周りの風景になじんできた。 |
コナラ、アベマキの林は密生化し、竹の侵入が著しい。 |
手を入れた跡の竹林 |
池の創出 |
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明るい竹林となり、小径を散策すると気持ちがよい。 |
名古屋インターのすぐ近くとは思えない風景が広がる。 |
休憩小屋 |
井堀の大クス |
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屋根に降った雨水を利用、雨どいには竹を利用。 |
調査で発見した森の主。周囲を間引いて林間広場とした。 |
事業の推進にあたっては各種専門家、市民グループ代表からなる「猪高緑地オアシスの森づくり整備検討会」を設置し、計画・設計・施工まで一貫して合意形成を図りながら進められました。また、そのプロセスにおいて市民と行政とが緑地の持つ課題・将来ビジョンを共有化することが不可欠と判断されたことから、検討会は市民公開(傍聴)形式で行われました。時として対立しがちな市民と行政の関係を、課題を解決する上でのパートナーの関係に高めていくためには、その礎を築くことが重要であることを、多くの場面で経験することができました。
コンサルタントの役割としては、文献調査、植生調査、各種資料作成、検討会事務局補佐、計画・実施設計、施工指導の連絡調整、パンフレット作成、など多岐にわたるものでした。また設計スタッフが個人意思で当地での市民活動に参加したことも少なくありませんでした。
対象地は樹林地や農地が荒廃していた反面、生物の多様性、都市環境の緩和、自然に接する場、といった面では都市に残された貴重な存在でした。計画にあたっては里山環境を復元するエリア、人の立ち入りを積極的には誘導しないエリア(生き物のためのエリア)を明確に区分しています。里山環境を復元するエリアでは棚田の復元(畦・水路補修、作業広場)、湿地ビオトープの創出(池、観察デッキ)、雑木林の手入れ(竹の進入抑制、密度管理)、竹林の手入れ(密度管理)、散策路の整備(階段、デッキ通路、縁台、ベンチ、サイン)などを行っています。
この取り組みを契機として、その恩恵を享受する立場の都市住民が施設・植生管理、企画運営を担う活動が着実な広がりを見せ始めています。
市民活動団体や市の生涯学習センターなどが主催する各種の活動(竹刈り・下草刈り等の植生管理活動、竹炭づくり、稲作体験講座(年間)、自然観察会、動植物調査、市民シンポジウム、等)が年間を通じて取り組まれ、多くの市民が参加できるようになってきています。現在では知る人ぞ知る「名古屋市内唯一の棚田」として親しまれています。